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本題
私達ももうすぐ社会人だし、と邪気の無い笑みを浮かべて史記はこの一言を付け加えた。それを聞いて淳司の笑い声も力無く窄んでいく。 「翔子ちゃんは何かそう言うのないかい?」 突然、総司がこちらを向いて尋ねる。 「え?」 「なんかこう……時間があればなぁ、と思うこと、ない?」 そんなの、考えるまでもない。が、 「う、うん。そういうの、あるね」 翔子は言葉を濁す。これだけは総司に知られる訳にはいかないのだ。 「なんか、皆、時間に追われているんだね」 総司がそう言うと四つの溜息が吐き出された。 この状況を快く思ってないのは淳司だろう。こういう雰囲気は彼の得意とするところではないので、何か部屋の空気を変える妙案を捻り出そうと考えているようだ。
「そうだ!」 唐突に彼はそう叫んだ。 「黒さんはどうっすか?」 淳司は会心の表情で質問を史記に放つ。彼女なら自分のスタイルを確立しているし、自分が為すべき事を全てこなしている、ということが容易に想像出来そうだ。 場の雰囲気を変えるには、絶好の相手に、絶好の質問。 「最近はそういうのないね。やるべきことはやっているし、時間に追われているなんて思う事はないね」 史記はさして考えるふうでもなく言う。淳司は満足そうに頷いていたが、 「でも」 淳司の目算はここで崩れた。 「遠い昔に……置き忘れてきたものがあるような気がする……それが何なのか、もう思い出せない……いや、記憶を奪われたって言った方が適切か。致命的なまでに、遠いどこかに置き忘れてきちゃった……」 彼女は今まで見せた事もないような空気を作り出していた。 ……場が、漆黒に染まったよう…… これには淳司も絶句し、何も言えなくなってしまった。 雨が降り出したのか、ぽつりぽつりと雨音が大きくなってきた。窓から雨が入ってくるが、それすらもこの沈黙を破ってはくれない。 五人の動きは、文字通り凍りついた。 それを救ったのは、間が抜けたような、平穏な、日常の学校生活を司るベルの音。 「あ、もう、こんな時間なんだ!」 翔子は努めて明るい声を出した。漆黒を打ち払うように。椅子から立ち上がる際にも、わざと大きめの音を出す。 「さて、私は帰るか」 亜季は本を鞄に入れてから、雨が部室に入らないように窓を閉める。 「じゃ、お疲れさん」 それを持ち、ひらひらと片手を振り部室の戸を開けて出て行った。 「ボクもマイホームに行くネ!」 扇子で自分の頭を軽く叩き、ジャックはおどけたふうに歩き出す。 「はぁ〜……家に戻ってもやることって限られているんだよね」 総司は未練がましくまだぶつくさ呟いている。 「俺も帰るか……黒さんはどうします?」 淳司は鞄を背負い、史記に尋ねる。恐らくは彼女が滅多に見せない弱さを見せた為に、彼にしては珍しく気を使ったのだろう。 「私はまだ、調べる事があるから。悪いね」 しかし、先程の事を引き摺っている様子は彼女にはなく、笑みさえ浮かべている。 「……そうっすか……それじゃあ」 それでも淳司はまだ心配そうに史記を見つめつつ部室をあとにした

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